広島・廿日市のサクラオ ブルワリー&ディスティラリー(旧・中国醸造) — 海と山と森で育つウイスキー

こんにちは、ブラインド川西です。
今回、私のリゾートトラスト時代の後輩にお誘い頂き、ホテルトラスティ大阪阿倍野にてジンで有名の「桜尾」のウイスキーセミナーに参加してきました。
広島県廿日市市桜尾にある株式会社サクラオ ブルワリー&ディスティラリー(サクラオB&D)。創業時の社名は「中国醸造」で、2021年に現在の社名に変わりました(創業1918年・現社長は5代目の白井浩一郎氏)。「桜尾」は地名、「ブルワリー」は醸造、「ディスティラリー」は蒸留の意味です。
日本酒蔵向けの醸造アルコール(アル添用)を蒸留して供給する会社として1918年に創業。1920年にウイスキー製造免許を取得して以来、約100年にわたり蒸留とウイスキーと関わってきた、知られざる歴史を持つ会社です。今回、社員の方によるセミナーでその歴史とものづくり、テイスティングまで一気に学んできたので、レポートします。

桜尾蒸留所の外観。目の前は瀬戸内海(出典: SAKURAO公式サイト)

海辺に建つSAKURAO DISTILLERY。対岸には世界遺産・宮島の厳島神社の大鳥居(出典: JWIC)
会社の概要
会社名:株式会社サクラオ ブルワリー&ディスティラリー(創業時は「中国醸造」)
現社長:5代目・白井浩一郎氏
創業:1918年(大正7)。地元酒蔵の共同出資による「中国酒類醸造」として発足
本社:広島県廿日市市桜尾(JR廿日市駅から徒歩10分、対岸に宮島)。支店は東京のみで、西日本の営業は広島本社からの出張態勢
ウイスキー事業の年表
会社のウイスキー史は、日本のウイスキー史とほぼ歩幅を合わせています。
年 | 出来事 |
|---|---|
1918 | 中国醸造(中国酒類醸造)創業。竹鶴政孝(広島県竹原出身)がスコットランドへ留学 |
1920 | ウイスキー製造免許を取得し、モルトを仕込み(現存記録として国内2番目の古さ。最古は兵庫・明石の江井ヶ嶋酒造の1919年) |
1924 | 山崎蒸留所が本格的な国産ウイスキー生産を開始 |
〜1949 | 定番は二級ウイスキー「ゴールデンハート」 |
1949〜 | 「ゴールデンハート」→「グローリー」へ。1950年代の旧広島市民球場ラバーフェンスに「グローリーウヰスキー」の広告(現マツダスタジアムにも「桜尾」の広告が入っている) |
1971 | ウイスキー輸入自由化。スコッチの輸入販売(「レッドライオン」)を開始し、原酒輸入が自社蒸留より安くなる |
1973 | 自社モルトの最後の仕込み(届出ベース。整理資料では1989年製造休止とする記載も) |
1983 | 日本のウイスキー消費のピーク(サントリー「オールド」=ダルマ瓶が世界一飲まれていた時代) |
1989 | 酒税法改正で特級・一級・二級が廃止、洋酒の関税も引下げ。安価なスコッチに国産地ウイスキーが押され「冬の時代」に |
1991 | 戸河内の旧国鉄廃線トンネルで焼酎、続いてウイスキー樽の熟成を開始 |
2000年代 | フランスの輸入業者が「トンネル熟成」に着目 → 「戸河内(TOGOUCHI)」誕生。2003年から主にフランスへ輸出 |
2017–18 | 創業100周年事業として桜尾蒸留所(SAKURAO DISTILLERY)を竣工・操業開始。ジン「SAKURAO GIN」発売、見学開始 |
2019 | グレーンウイスキー設備と貯蔵庫を新設 |
2021 | 社名を「サクラオB&D」へ変更。初のシングルモルト「桜尾」「戸河内」を発売 |
2023 | 「戸河内プレミアム」などブレンデッドをモルト・グレーンとも100%自社原酒のジャパニーズに切替 |
2026 | 第2蒸留所「フォレストサイト」で蒸留試験を開始(3月〜)、ビジター棟が完成(10月) |
2027.4.15 | フォレストサイト グランドオープン予定 |
製造の特徴 — 1つの蒸留所、2つの熟成環境
ドイツ製ハイブリッドスチル
蒸留器はドイツ・アーノルド・ホルスタイン社製のハイブリッドスチル。ポット部分に「タコの足」のような銅製コラム塔が付いた独特の形で、蒸気がコラム内を通る間に重い成分が液体へ戻る「還流」が起き、よりクリアなスピリッツだけを回収できます。開設当初は1基で2回蒸留していましたが、現在は増設して初留・再留の2基体制となり、生産効率は約4倍に。連続蒸留にも使え、ウイスキーとジンのほか、ラムやウォッカなど多彩なスピリッツを作り分け可能です。

見学で見られる蒸留器(出典: オレンジページnet)
熟成樽は約80%がバーボン樽、約10%がシェリー樽、残りにミズナラ、ポートワイン、マデイラワインなどが入ります。
桜尾貯蔵庫 vs 戸河内貯蔵庫(トンネル)
最大の特徴が、まったく異なる2つの貯蔵庫の併用です。「蒸留はすべて桜尾」。戸河内か桜尾か、どこで寝かせるかでシングルモルトのブランドが分かれます。
桜尾貯蔵庫 | 戸河内貯蔵庫(安芸太田町) | |
|---|---|---|
環境 | 海の目の前。黒塗り外壁で熱を溜め、夏は倉庫内40°C近く、冬は氷点下まで下がる寒暖差 | 旧国鉄の廃線トンネル。年間を通じて約10〜20°C・高湿度で一定 |
熟成 | 寒暖差で熟成は早いが、天使の分け前(蒸発)が多い | 熟成はゆっくりだが蒸発が少なく、独自のまろやかさ |
保管 | モルトは横積み(ダンネージ)、グレーンは縦置き(パレタイズ) | 樽のフープが錆びるため4〜5年に1回交換 |
ブランド | シングルモルト「桜尾」 | シングルモルト「戸河内」 |

山の下を走っていた旧国鉄の廃線トンネルを熟成庫に(出典: The Single Malt Shop)

トンネル内部の熟成風景(出典: Whiskeen)
定番6種のテイスティング
セミナーではすべて市販品・定番の6種を試飲しました。左半分がシングルモルト、右半分がブレンデッドです。

商品 | 特徴 |
|---|---|
シングルモルト桜尾 | ピートの効いたモルト+バーボン・シェリー・ミズナラほか4種の樽。オレンジ系の果実感と海沿いならではのほのかな塩味 |
シングルモルト戸河内 | ノンピートのバーボン樽のみのシンプルな構成。トンネルの「環境任せ」。バナナの香り(ニューメイク由来)が残りやすい |
シングルモルト桜尾 シェリーカスク | 100%シェリー樽原酒。ダークチョコ/カカオ、スモーキーなニュアンス。定番品でシェリー樽100%のジャパニーズは他社ではほぼ例がないとのこと |
戸河内 プレミアム | ブレンデッドの最もライトで飲みやすい定番品 |
戸河内 ピーテッドカスクフィニッシュ | アイラ島のピーティー原酒熟成樽でフィニッシュ。「スモーキー」というより重厚なニュアンス |
SOGAINI(ソガイニ) | 2025年発売。広島弁の「そがいに(そんなに!)」が名前の由来。モルト比率が高く、若年層向け・2,000円台。ボトル上面は桜の5弁デザインで、モルト原酒5種+グレーンをブレンド |


地元大麦の取り組み — 世羅町
世羅町(JA尾道市と協定)でウイスキー用大麦の栽培を進めています。2021年秋に試験栽培を開始し、2027年に200ヘクタール・600トン=自社使用量の約3分の1を目標に、作付け面積を拡大中。ウイスキー向け新品種は二条大麦「こはく雪」です。
二条大麦は粒が2列で糖分が多くアルコール発酵に向き(ビール麦とも呼ばれる)、歴史の古い六条大麦は麦茶などに使われます。最初は六条の「ゆきはな六条」中心でしたが、今は二条の「こはく雪」が主力に。昨年は250トンほどまで収穫が伸びたそうです。

世羅町で収穫されるウイスキー用の大麦(出典: RCC/TBS NEWS DIG)

世羅町での大麦栽培(出典: 中国新聞デジタル)
第2蒸留所「SAKURAO DISTILLERY FOREST SITE」(吉和)
廿日市市吉和(旧吉和村)は日本最南端の豪雪地帯で、太田川の源流域・わさびの産地。旧キャンプ場跡地に蒸留棟+ビジター棟の2棟からなる新蒸留所を建設中です。設備はドイツの最新鋭機器+スコットランドの伝統的な蒸留器メーカーのポットスチルで、仕込み1回2.1トンと桜尾本館の約2倍規模。冬は雪のため閉鎖し、2027年4月15日グランドオープン予定。広島駅からの送迎バス(要予約)も始まります。

FOREST SITEの完成予想パース(出典: サクラオB&D公式)

2025年3月に執り行われた地鎮祭(出典: サクラオB&D公式)
おまけ — 「ジャパニーズウイスキー」の定義と法整備
現行の酒税法は熟成年数の義務がなく、穀物由来の原酒が10%入っていれば「ウイスキー」と表示できる(旧二級ウイスキー相当の緩さ)ことが問題視されています。そこで日本洋酒酒造組合が2021年2月に自主基準「ウイスキーにおけるジャパニーズウイスキーの表示に関する基準」を策定しました。
原料は麦芽と穀類+日本国内で採取された水のみ
国内の蒸留所で糖化・発酵・蒸留
700L以下の木樽で3年以上熟成
国内で瓶詰め
業界はこの定義の法律化(法整備)を国に要請中。「JW」ロゴの入った商品はこの基準に準拠しています。

桜尾蒸留所。JR廿日市駅から徒歩10分、見学アクセスも良好(出典: ウォーカープラス)
まとめ
海(桜尾)・山(戸河内トンネル)・森(吉和)と、広島の地形をフルに使ってウイスキーを育てるサクラオB&D。1918年の創業から100年以上、蒸留の会社として一貫しているからこその深い歴史と、これからの新しい動きが重なる蒸留所です。見学はJR廿日市駅から徒歩10分とアクセス抜群なので、気になった方はぜひ行ってみてください!
天・地・人全てが折り重なってできた素晴らしいウイスキーでした。
桜尾って聞くと、ジンのイメージが強いかも知れませんが、ウイスキーも最高ですので!
ぜひぜひ・・・!!
参照: サクラオB&D公式サイト / JWIC 蒸留所データ / 新蒸留所リリース / 日本洋酒酒造組合

