【コラム】リオハに3,000万リットルの"余り"。それでも1本選ぶ理由 🍷

更新 2026年11月1日川西教平

出るワインは多すぎ、売れるワインは足りない

スペイン・リオハで、ちょっと重いニュースが動いています。

今年のリオハは約2億5,000万リットルのワインができる見込み。ところが売れるのは2億2,000万リットルほど。差し引き約3,000万リットルが余ってしまう——と、リオハの農業家団体「ARAG」の会長、エドゥアルド・ペレス・オセス氏がスペイン紙「ラ・リオハ」に語りました。

余ったワインはどうなるか。そのまま価格を下げる圧力になります。安く買える側には嬉しい話に聞こえますが、産地の中身は深刻です。

「減らして、選んで、頑張った」のに

じつはリオハは、ここ数年ずっと供給過多と戦ってきました。
昨年は減産のためブドウ畑を7,000〜9,000ヘクタール(全生産面積の11〜14%)
潰すことも検討されていました。

今年も対策は尽くされました。

  • ドローンで畑をひとつずつ監視

  • AIで収量を予測

  • 生産者には「減らせ、厳選しろ、もっと品質基準を守れ、コストも呑め」と要求

それでも、です。

暖かい春と猛暑がブドウを大きく実らせてしまいました。
晩霜も雹もなく、収穫量は去年を大きく上回る結果に。
収穫は8月中旬と異例の早さで始まり、9月22日に幕を閉じました。

しかもリオハのワインは、クリアンサ、レセルバ、グラン・レセルバという厳格な熟成規定を持つ産地。
樽や瓶で寝かせる年月が必要なため、新酒の多くはすぐに売りに出せません。
売れる量が増えるのは、ずっと先の話です。

リオハの秋のブドウ畑(画像②)

数字で見る、生産者の悲鳴

ARAGの試算がこれを物語っています。

リオハのブドウ農家はここ6回の収穫で、10ヘクタールあたり約3万8,000ユーロの損失を抱えてきました。
ブドウ1kgの生産コストは平均0.864ユーロなのに、買い取られる価格は平均0.722ユーロ。
1kg売るたびに約0.142ユーロ、赤字です。

「農家は自分たちの役割を果たした」とペレス・オセス氏は語ります。
それでもブドウの価格は追いつかず、ワイン造りをやめて別の作物に転換する農家が増えているそうです。

だから、リオハの1本を選ぶなら今年は特別です。
安売りの裏には産地の悲鳴がある。
棚の前でリオハを手に取ることは、そのまま作り手への応援になります。

【筆者お気に入り】マルケス・デ・リスカル

ここで、私の話をさせてください。

私が愛してやまないのが、リオハのマルケス・デ・リスカルのテンプラニーリョ。
ブラインドテイスティングに出てきたら、ヴィンテージはともかく生産者だけは確実に当てられるくらい、味の癖を憶え込んでいるつもりです。

中でも2021年のレセルバ。この年に巡り会ってから、リスカルの沼から出られなくなりました。

ワイナリー紹介:マルケス・デ・リスカル

フランク・O・ゲーリー設計「ホテル・マルケス・デ・リスカル」(画像④)
  • 1858年創業。スペイン、エルシエゴ村(リオハ・アラベサ地区)に建つ、リオハ最古参の名門

  • 創業直後の1860年に建てられた「オリジナル・ボデガ」は現役のセラーとして今も使われている。
    設計にはボルドー、シャトー・ラネッサンのセラーマスタージャン・ピノーが参加
    ——つまり生まれたときから「ボルドー方式」を学んだリオハ

  • ラベルに金色の網を巻いたあのボトルの判子のようなラベルは、スペインワインの代名詞。レセルバはヘミングウェイやダリにも愛され、現在100カ国以上で飲まれる「リオハのベンチマーク」

  • 敷地内には、建築家フランク・O・ゲーリー(グッゲンハイム美術館設計)によるホテルがそびえる。外壁のチタンは、ピンク=ワインの色、ゴールド=ボトルの金網、シルバー=キャップの箔という、リスカルの3色でできている

  • そのゲーリーをプロジェクトに招いたとき、リスカル側が振る舞ったのは彼の生まれ年の1929年ヴィンテージ。セラー("カテドラル"と呼ばれる貯蔵庫)に眠っていた1本で、ゲーリーはその場で受諾したという逸話も

ワイナリーが美術館とホテルを持つ「ワインの街(シティ・オブ・ワイン)」
——飲みに行くだけで旅になる産地です。

Reserva 2021 は、こういうワイン

マルケス・デ・リスカル・レセルバ2021(画像⑤)
  • 品種:テンプラニーリョ主体+グラシアーノ(10%以下)

  • 樹:1970年代以前に植えられた古木。リオハ・アラベサの粘土質石灰土壌

  • 熟成:アメリカンオークで20ヶ月+瓶熟最低1年

  • 度数・温度:14.5%。16〜18℃で

  • 香り:黒チェリーの深い色調。リコリス、シナモン、ブラックペッパーのアロマ。
       樽熟成の気配を感じつつも、熟した果実の凝縮感が主役

  • 味わい:フレッシュで飲みやすい。磨かれたタンニン、バルサミックを思わせる長い余韻

  • ペアリング:生ハム、穏やかなチーズ、こってりしすぎない煮込み、豆料理、鶏や赤身のグリル
    まさに「リオハらしさ」の見本のような1本です。

まとめ:安さの理由を知って、それでも(だからこそ)リオハを

  • リオハの2026年産は約2億5,000万リットル造れるが売れるのは2億2,000万。約3,000万リットルの余剰が価格を下押しする

  • ドローンやAIによる減産努力を重ねても、暖かい春と猛暑で収穫量が増えてしまった

  • 過去6回の収穫で10ヘクタールあたり約3万8,000ユーロの損失——産地は限界に近い

  • だからこそ、棚の前での1本の選択が応援になる

値札の安さには理由があります。
そしてその理由こそが、「リオハを飲もう」と決めるいちばんの理由になる今年です。

著者:ブラインド川西


引用・出典一覧

【本文の参考】

【マルケス・デ・リスカルのワイナリー情報・テイスティングノート】

【画像の出典】

ブラインドテイスティングの基本を読む →

NEXT EVENT

次は、グラスを囲んで。

イベント一覧
ヴィノ
川西参加・外部イベント参加受付中

2026年11月15日 13:00–15:00

第6回 ヴィノテラスカップ ブラインドテイスティングコンテスト 予選会

オンライン

イベントの詳細を見る

OUR COMMUNITY

一杯から、 つながっていく。

好きなワインも、感じる香りも、人それぞれ。 その違いを楽しめる仲間と出会いませんか。